まず、虫眼鏡を使って皆さんの「ほくろ」を更によく御覧下さい。以下の点に御気付きになられたでしょうか。
1.円形、また楕円形の場合も左右対称です。
2.一様で、濃淡入り乱れてはいません。
3.境目がはっきりしていてスムーズで、くずれた場所はありません。
4.出血や、ウミやカサブタはついていません。
これらが「ほくろ」と「ほくろの癌」を見分ける大きなポイントなのです。またその他のポイントとして、
5.急に大きくなったり色や形が変わったりしない。
というのも「ほくろ」と診断する上で大切なポイントです。「ほくろ」には専門的には「単純黒子」「母斑細胞性母斑・色素性母斑」「青色母斑」などが含まれます。
さて、5つのポイントを御確認された上で次の写真を御覧下さい。
これらは、いわゆる「ほくろの癌」と呼ばれるもので、正式な病名は「悪性黒色腫」です。また英語では"Malignant Melanoma"(メラノーマ)となります。以下、「メラノーマ」と表記します。
この写真を御覧いただくと前に挙げました5つのポイントを全く満たしていないことが御分かりいただけると思います。つまり前のポイントと比較して、
1.形はいびつで、対称性はありません。
2.黒い部分の濃淡が目立ちます。
3.左の写真の方は分かりにくいですが、実際にはまわりに薄くしみだしています。右の写真では、もはやはっきりした境目はわかりません。
4.左の写真ではありませんが、右の写真の方には出血とウミがあります。
という違いが「ほくろ」に対してあるのです。また、注意していただかないといけないのは、この2枚の写真はある程度進行した状態であるということです。初期の頃は「ほくろ」に見えていたのがポイント5で述べたこととは逆に、急に大きく色や形が変わり短期間で写真のようになったと考えられるのです。
メラノーマは人体に発生する癌の中で最も悪性で、発生後わずか数ヶ月のうちに大きくいびつになり、あちこちに転移して死亡する恐ろしい癌です。もともと白人に非常に多く、紫外線が大きく関係しているとされていて、アメリカやオーストラリアでは激増しています。紫外線を防ぐオゾン層を破壊するフロンを規制するのはそのためです。日本でもやはり増加しているのですが、日本人のような黄色人種では紫外線で発生するものは少なく、手のひらや足の裏に発症する事が多いとされています。足の裏の「ほくろ」がメラノーマに変化するのではなく、もともと小さなメラノーマとして発生したものが、「ほくろ」として放置され、手のひらや足の裏への刺激により大きく拡大し悪性化していくのです。
ごく初期のメラノーマを御覧いただきましょう。
これは足の裏ではありませんが、20代という若い女性に生じた直径3mmにも満たない黒い皮疹です。まさに一見「ほくろ」に見えますが、この黒い皮疹は診察日の半年前に発生し、診察日の一ヶ月前までは直径1mmの点状のものでしかなかったのですが、その頃から急に 3mmに拡大したのです。ポイント5に反するわけですからメラノーマを疑い、手術で切り取り顕微鏡で調べましたところ、皮膚の表面にメラノーマの細胞が見つかりました。皮膚の表面だけにとどまっていましたので、その後普通に生活されていますが、単に「ほくろ」として見ていると数ヶ月後には取り返しのつかないことになっていたかもしれません。
以上から、メラノーマには早期診断が非常に大切だということが御分かりいただけたと思います。ですが先ほども説明しましたように、ごく初期のうちは「ほくろ」と区別がつきにくくベテランの皮膚科医でも悩んだり分からないことが多いのです。けれども、我々はプロです。日々勉学に勤しみ、上に挙げたポイントをしっかりと見据え、診断しているのです。
また最近気になることがあります。「ほくろ」をレーザーで簡単に取ることが流行っているようですが、もしそれがメラノーマだった場合レーザーをあてることで一気に転移して悪化してしまう危険性があります。そのため「ほくろ」を取られる前に、まず皮膚科を受診されるようお願いします。
気になる「ほくろ」、心配な「ほくろ」でお悩みの方は、遠慮無く皮膚科を受診してください。このページを御覧になられた皆さんに、少しでも御役に立つことができれば幸いです。
文責 神戸医療センター皮膚科 田中将貴
